| 文字を速くとらえるためには眼筋のトレーニングが不可欠 |
| 富田: |
私自身、読書スピードを計測してみたのですが、平均よりは速いという結果が出ました。しかし、速読が目指すスピードとは大きな開きがあります。 |
| 川村: |
日本人の平均的な読書速度は分速400〜600字です。ごく普通の文庫本、新書が1ページ平均600字で印刷されていますから、1分で1ページずつ読んでいく能力を持っていることになります。文章を多く扱う業種に携わっている人たちで読書能力の平均値は分速800字前後。しかし、速読のトレーニングを積めば、何十倍もの速度で読むことも可能になります。 |
| 富田: |
読書速度を飛躍的に向上させるために、どんなトレーニングをするのでしょうか。 |
| 川村: |
まず、たくさんの情報を脳に送るために、目の筋肉を鍛える訓練を行います。陸上の100メートルの選手は、速く走るために主に足の筋肉を強化する。読書の場合も眼球を動かしている筋肉を鍛えることによって、文字の上を目線が速く走れるようにするわけです。 |
| 富田: |
意味を理解せずに、単純に「見る」だけの作業であれば、人間はどれくらいのスピードで文字を捉えることができるのでしょうか。 |
| 川村: |
1分間に1500〜2500字です。これが速読の訓練をしていない人の読書速度の限界であるとも言えます。 |
| 富田: |
私は学生の頃、眼球運動についての研究に取り組んだことがあります。研究では数字を羅列して、その中に例えば「7」が含まれているかどうかを検索させる実験を行います。このとき人間は目線を動かして数を認識していくのですが、多くの人はひとつずつの数字に目線を合わせてチェックしています。これに対して平均よりも速く検索ができる人は目線が止まったポイントが圧倒的に少ないことがわかりました。いくつかの数字をまとめて処理をしていたのです。 |
| 川村: |
その実験では、目線の動きの限界点がわかったのですか。 |
| 富田: |
1ヵ所をチェックする際に、約0.2秒かかりました。つまり、どんなに速く目を動かしても1秒間に5ヵ所をチェックするのが限界という結果になったのです。しかし、プロのF1ドライバーに話しを聞くと、明らかにそれ以上の速度で見ている。そこで、トレーニングを重ねることや、過去の習慣を捨て去ることで、その限界を打ち破ることができるのではないか、という仮説を得たのです。ただ、川村さんのように体系化するまでには至らなかった。今にして思えば「あの時、もっと真剣に研究を続けておけば良かったな」と思いますよ(笑)。 |
| 川村: |
速読について他の学説を唱える人たちは、目の滞留時間を気にします。「目の機能上、1分間に1200〜1500字以上は認識できないのだから、すなわち速読はできない」と結論づけるのです。しかし、現実にはそれ以上のスピードで読む人がいるのですから、学説も現実と結果に合わせて行かなければならないと思います。 |
| 文字の意味を理解するために脳は記憶から逐次検索している |
| 富田: |
ただし、たとえ1分間に1500字、あるいはそれ以上の文字を見ることができても、意味を理解しようとすれば、400〜600字のスピードに落ちてしまう。これでは速読になりません。 |
| 川村: |
そのとおりです。そこで、まず人間がものを見て、それを認識するシステムを考えてみました。目は光の情報を視神経を通して脳に送ります。送られてきた信号を電気信号に換える時点で、30以上の要素に分けられると考えられます。 |
| 富田: |
アメリカの大脳生理学者でノーベル賞を受賞した、ヒューベルとウィーゼルの学説ですね。 |
| 川村: |
はい。いったん直線、曲線、奥行き、色合いなど様々な要素に分解された情報は、あらためて統合され、それが意識に出力される。こうした過程を経て、私たちは目から取り込んだ情報を映像として認識して理解できているのです。 |
| 富田: |
人間が見ている映像は、実は脳が作り出しているということですね。 |
| 川村: |
そうした認識に立った上で、脳に送られてくる情報は大きく2つに分けられると考えました。ひとつは景色のように意味を付帯していない情報、もうひとつが文字のように形に対する意味が定義されている情報です。
人間は形に対する意味を学習し、記憶し、神経細胞の中に刻んでいる。つまり、人間が文字の意味を理解する場合、これまでの記憶を検索し、対応する意味を見つけてこなくてはなりません。これを脳の逐次検索と呼んでいますが、一連の流れの速さが読書スピードを決定していると言えます。 |
| 地球の自転は絶対的スピード 速読は相対的スピード |
| 川村: |
自動車で高速道路を100キロで走行すると、初めは非常に速く感じます。これは私たちが常日頃から40〜60キロのスピードを基準として記憶しているからです。しかし、しばらく走っていると、100キロの速度に慣れてきて、だんだん遅く感じるようになります。脳の中の速さの基準が変わったからです。 |
| 富田: |
脳が高速走行のスピードに順応し、情報処理能力を高めたわけですね。しかし、高速走行の記憶は短期記憶なので、一般道路に戻って一定の時間が過ぎれば元の基準に戻ってしまいます。これを長期記憶にするためには、どんなトレーニングが必要なのですか。 |
| 川村: |
まず、「スピードを記憶する」というと、どうしても抽象的になってしまうので、どのようなスピードを記憶すべきかを明確にしておかなければなりません。そこで「スピードには絶対的スピードと相対的スピードがあり、速読の場合は相対的スピードを記憶する」と説明しています。 |
| 富田: |
具体的には? |
| 川村: |
絶対的スピードは地球の自転や公転、または太陽系が銀河系を移動している速度などが代表です。人間はその速度を比較するものがないために認識することができません。これに対して、遊園地の乗り物「ティーカップ」ならば、ハンドルを回すことで速度が変化し、また他の速度と比べることができます。これが相対的スピードです。 |
| 富田: |
実際の訓練はどのように行うのですか。 |
| 川村: |
人間が比較できるものとして「間隔」に注目しました。音であれば「パン、パン、パン」という音の間隔が「パッパッパッパッパッ」と狭まると、我々は速いという感覚で記憶する。また、形が表れる間隔を狭めると、人間は「速く表示されている」と感じます。間隔を操作することによって、これまでの遅いスピードの記憶から、速いスピードの記憶に基準を変えていくのです。 |

人間の脳は、「慣れる」ことでその判断基準を変化させていく柔軟性を持ち合わせる。速度でいえば、低速から高速に移ったとき、最初の基準からすれば「速い」と感じる。しかし、一定の時間が経過すると、その「速い」速度が基準となり、元の速度は逆に「遅い」と感知される。 |
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| 文字を固まりで認識して同時並行処理を実現する |
| 富田: |
検索速度を向上させるとともに、パターンをどの単位で認識するかも重要ではないでしょうか。例えば「読」という漢字を認識する場合、漢字を習いたての子どもなら「左はごんべん、右は士を書いて、カタカナのワにル」といったように考えます。漢字の中にあるパターンをそれぞれ認識し、それらを統合して、「読」という漢字であることを理解する。しかし、私たちは文字を見た瞬間に、各パターンについて考えなくても「読」という字に見えるし、「速読術」という単語単位で認識することも可能です。 |
| 川村: |
速読ではそうした能力を高めるために、1文字ずつ追いかけるのではなく、文字を固まりで認識できるような訓練を行います。すると、2文字、3文字、単語、1行、数行、1ページというように、段階を経ながら、より広い固まりで文字を捉えられるようになります。 |
| 富田: |
これは近年のブロードバンド化に似ています。以前は64キロバイトで驚いていたのが、今ではメガ、近い将来にギガになると言われている。このように一度に送れる情報の量が増えれば、時間あたりの処理量が圧倒的に増えるのです。 |
| 川村: |
従来のように1文字ずつ追っていくのは直列的な処理です。この直列処理の代表例として、タイプ打ちが挙げられます。タイプは文字の形に対応する位置の反射の訓練です。ブラインドタッチができる人を見ると、初めは「すごいな」と感心するが、1週間ほど反射訓練をすると、ほとんどの人ができるようになります。しかし、いくら速くなっても、ひとつずつ処理していくので限界があります。
一方でパターン認識、つまり同時並行処理の代表例はピアノです。和音を同時に弾きますし、楽譜を読む際には2段の譜面を同時に見ながら、さらに下に書いてある歌詞も読んでいる。ピアノの訓練をしている人は、自然に同時処理の感覚が脳に刻まれています。
だから、それを文字に置き換えるだけで、あっという間に速読ができるようになる人が多い。普通の人が訓練の度に、500字、1000字という単位で速度が向上していくのに対して、音楽教育を受けている人は1万時単位で伸びることも珍しくありません。 |
| 富田: |
そんなに違うとは驚きですね。しかし、日本の教育の中で同時並行処理を学ばせるような教科は、音楽しかないのが現状です。 |
| 川村: |
多くの人が論理的思考を訓練されてきていますから、どうしても直列的で、従来の1字ずつ読む方法にとらわれてしまう。 |
| 富田: |
そうなんですよ。私も自分で速読に挑戦してみて、なかなか克服できないのが、つい音声化してしまうことです。どうしても頭の中に言葉が響く。論理的には音声化という無駄な処理をするより、全体のパターンとして意味を理解したほうが速いのは分かるのですが、その悪習慣から抜け出せません。 |
| 川村: |
そうした悪習慣から逃れることができるように、一度に2文字ずつ、3文字ずつ見せる訓練をします。人間の声帯は1度に2つ以上の音を発生できないしくみになっているので、音読できない状態をつくった上で見る訓練をしていくのです。ただ、初めのうちは音読から抜け出すのは難しい。目そのものはページ全体の文字が見えているのですが、1文字ごとに形に対応した意味があるために「そこに集中しなさい」という反射が起きて、他は見えなくなってしまうのです。 |